前回までの検討で、B細胞悪性リンパ腫のイムノグロブリン重鎖(IgH)遺伝子のモノクロナリティーを判定する方法であるVR法は、組織標本を使用した場合は従来法であるサザンブロットとほぼ同程度の感度を示すが、穿刺検体を使用した検討では感度が50%まで低下することがわかった。この原因として穿刺検体の場合は吸引時に腫瘍細胞と同時に末梢血も回収されるため、末梢血のモノクロナリティーを示さない正常B細胞による干渉を受けるためではではないかと推測された。そこで、末梢血の混在がVR法の判定にどのように干渉するか検討した。過去にVR法陽性が確認されている悪性リンパ腫組織からゲノムDNAを抽出した。 また健常人末梢血を採取し、同じくゲノムDNAを抽出した。両者を比率を変えて混合し、VR法のプロトコールに従い、制限酵素処理、ベクトレットリンカーの結合、制限酵素処理による再構成を起こしていない遺伝子の増幅過程からの除去、nested PCRによる再構成された遺伝子断片の増幅を行った後、アガロースゲル電気泳動により、モノクローナルなPCR産物の増幅が確認できるかどうか判定した。複数の検体で実施した結果、モノクローナルなバンドがどの長さで検出されるかにより多少の変化はあるものの、末梢血由来のDNAと悪性リンパ腫組織由来のDNAがおよそ10:1以上であればモノクロナリティーが明確に判定できることがわかった。この結果から換算すると、穿刺検体中にB細胞数としては同数、白血球数としては1/10、赤血球数としては1/10000以上の数の腫瘍細胞が存在すればモノクロナリティーの判定が可能であることとなる。
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