本年度は甲状腺原発の悪性リンパ腫を疑う患者を対象として穿刺吸引細胞診施行時に、同時に穿刺で使用した針の中に残った腫瘍細胞を回収し、DNAを抽出してIgH遺伝子のモノクロナリティーを判定することを目的とした症例の収集を進めた。本年度は20例が対象となったが、腫瘍細胞からベクトレットPCRでの解析を施行するのに十分なDNAが回収されたのは6例にとどまった。腫瘍細胞からのDNAの回収量が少なかった理由として、これらの症例の多くが超音波検査や臨床像からは悪性リンパ腫よりも橋本病を疑うものであり、線維化が進んでいて組織に浸潤しているリンパ球の回収量が少なかったためと考えられた。これは検査時に同時に作成した細胞診用のスライドグラスでリンパ球の数を計測することで確認された。従って、この現象は症例の性質によるもので、採取技術に何らかの問題があるわけではないと判断した。DNAが十分量採取された6例のうち3例でIgH遺伝子のモノクロナリティーは陽性を示した。この3例は生検を施行され3例とも悪性リンパ腫であった。残りの症例は現時点で生検を施行されていない。3例のうち2例は同一症例の甲状腺の別の部位からの穿刺であり、ベクトレットPCRで同一の部位にバンドが見られた。このことより、VR法の再現性が良いこと、またこの症例における2か所の腫瘍は1つの腫瘍細胞に由来する腺内転移であることが証明された。VR法における偽陰性の原因として穿刺時の末梢血の混入を考え、穿刺検体中の赤血球数をモニターしていたが、今年度の症例では末梢血の混入が原因で偽陰性を呈したと考えられる症例は確認できなかった。
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