これまでの結果から動脈硬化巣は血管の炎症と捉えられようになったが、その病態形成の鍵を握る過酸化脂質の存在を考慮しても粥状硬化の進展とイベントとしての急性冠症候群(ACS : acute coronary syndrome)の発症とは必ずしも一直線上に存在するものではないことより、我々は別の介在因子の存在の必要性・重要性を検討している。即ち、我々はこのプラークの破綻に、慢性的に存在するマクロファージではなく、本来局所には存在しておらず炎症により浸潤が誘導される好中球が関与している可能性を挙げ、その好中球の病態関与への役割を免疫組織学的に検討することを本研究の目的とした。今回我々が用いた検体は取り扱いには便利であるが従来評価には不適切と考えられていたホルマリン固定後病理組織検体である。病期の進んだ頚動脈病変の検体を用いて、好中球マーカーであるナフトールASD染色、CD66b免疫染色、マクロファージ特異的なCD68免疫染色に加えて、細胞レベルで捕らえる事が可能なROSの産生部位の検討(今回我々が始めて開発した)、ROS産生に直結するNADPHオキシダーゼサブユニットの免疫染色、好中球の活性化のマーカーになりうる細胞質fPRL1濃度の定量(我々が独自に開発した)等を行い、以下の結果を得た。(1)粥状硬化では従来からいわれているマクロファージに由来するものとは異なる好中球に由来する酸化ストレスを病理組織学的に検出した、(2)好中球が多く浸潤している病変ではROS産生にマクロファージよりむしろ好中球が貢献している、(4)好中球のROS産生にはNADPHオキシダーゼ活性が大きく関与している、(4)好中球活性化の指標には細胞質のfPRL1定量が有効であり、低値であるほど活動性であることがなどを新たに発見した。これらの事実を受けて、今後は好中球の活性化が血管平滑筋細胞に及ぼす影響について検討していきたい。
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