本研究の目的は、血漿中の非対称ジメチルアルギニン(ADMA)濃度がどのように調節されているかを解明し、心血管疾患の予防・治療法のターゲットを見つけ出すことである。初年度の研究結果から、赤血球においてはADMAの産生・分解系を含む代謝系が活発に働いていること、ならびに翻訳後修飾によるADMA化されたタンパク質がカタラーゼであるとの興味ある新知見が得られた。本年度は、この成果を発展させて、課題1.ヒト赤血球カタラーゼ分子中、ADMA化されたアルギニン残基をタンパク質化学的ならびに遺伝子工学的手法を用いて特定するとともに、課題2.ADMA化タンパク質の消長を解析するための基質を合成した。以下にその結果を報告する。 課題1. リジルエンドペプチダーゼを用いてヒト赤血球カタラーゼを消化し、ペプチド断片をトリシン-SDS-PAGEによって分離し、結合型非対称ジメチルアルギニン残基と特異的に反応するASYM24抗体を用いたイムノブロットを行った。唯一反応の見られた16kDaペプチド断片をN末端アミノ酸配列分析に供した結果、MLQGRLFAYPDTHRHの配列データが得られた。本ペプチドはカタラーゼ分子の350番目のメチオニンから始まるペプチドであったことから、非対称ジメチル化されたアルギニン残基は365番目のアルギニン残基であることが示唆された。現在、組換え型ペプチドを作製し、PRMT1によるメチル化を確認しているところである。 課題2. PRMT1の良好な基質となるGAR(グリシンアルギニンリッチ)モチーフを含む17残基のペプチドをGST融合タンパク質として合成し、組換え型PRMT1およびS-アデノシル-L-[^3H-メチル]メチオニンによりGST-GARペプチドのメチル化を行った。ここで得られた合成基質を赤血球抽出液とインキュベーションすると、低分子領域に放射活性が確認され、その反応はATP依存的であり、またプロテアソームの阻害剤によって阻害された。 以上の結果より、赤血球はADMA結合型タンパク質の産生・分解機構を解析するのに適した細胞であり、得られた成果は、心血管疾患の予防・治療法のターゲット発見に繋がるものと期待される。
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