研究概要 |
虚血変性アルブミン(ischemia-modified albumin:IMA) は、虚血状態においてN末端アミノ酸8個に非可逆的変性をきたしたアルブミンである。一方、呼吸不全で測定される血液ガスや酸素飽和度は、その瞬間での酸素濃度を示す指標である。アルブミンの血中半減期は約1週間であるため、糖尿病における血糖値とグリコアルブミンの関係の如く、IMAが過去一週間の低酸素状態の指標となるかもしれないと申請者は推定した。 測定方法は申請者の既報(Clin Chim Acta. 2005;362:155-60)による。同意の得られた被験者より血液1mlを採取し、比色法で定量する簡便な分析法である。種々の慢性呼吸不全患者で臨床経過との対応を検討した結果、今回検討した範囲では有意な変動を認めることはできなかった。 しかし、低酸素、虚血状態に関わるマーカーを幅広く渉猟した結果、以下のような注目すべき指標を見出した。まず、血清paraoxonase1 (PON1)活性が末期腎不全の透析患者で低下し、人工透析で上昇することを報告した(Gugliucci A, Kimura S: Clin Chem Lab Med 2011;49: 61-7)。また脳血管障害で低酸素状態となった症例をもとに、soluble receptor for advanced glycation end-product (sRAGE)の変動を追跡した結果、病状の悪化に伴いsRAGEの上昇がみられ、脳血管障害のマーカーとなり得る可能性が示された(Menini T, Kimura S:Clin Chem Lab Med 2013 Mar 13;1-8)。今後はこれらのマーカーの動態を幅広い病態で追跡し、低酸素血症との関連を含め幅広い臨床応用への道を探る予定である。
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