骨髄異形成症候群(myelodysplastic syndromes ; MDS)は血球形態異常がその特徴であるが、形態異常をもたらす分子メカニズムは不明である。一方新薬レナリドマイドは染色体5q欠失のあるMDSに特異的に効果を発揮して異常クローンの増殖を阻害することから、形態異常を有する細胞の分子基盤の解明に役立つ可能性がある。本研究では応募者が独自に樹立した5q欠失を有するMDS由来細胞株MDS-Lを用いて、レナリドマイドで処理した際の細胞学的・分子生物学的変化を検討した。MDS-Lは通常単核の幼若細胞として旺盛に増殖するが、本細胞株のin vitro培養系にレナリドマイド(10μM)を連日添加すると、複数核細胞が出現・増加するに伴い細胞増殖が抑制された。最終的に細胞はアポトーシスを示して死滅した。また処理細胞をタイムラプス顕微鏡にて経時的に観察すると、MDS-L細胞は2個の細胞に分裂する寸前に細胞分離が遮断されて2核細胞になる様子が観察され、レナリドマイド処理によって細胞質分裂(cytokinesis)が阻害されることがわかった。さらにマイクロアレイを用いた網羅的遺伝子発現の解析において、レナリドマイド処理群では複数の細胞周期(特に分裂期)関連分子の発現低下を認めた。以上の結果から、細胞増殖の抑制はアポトーシス誘導に加えて細胞質分裂の阻害作用によるものと考えられた。レナリドマイド処理によって発現が著明に低下した遺伝子の中で、5q領域に存在する遺伝子であるKIF20Aの分子機構との関連が想定されたため、現在この遺伝子発現を人為的に操作した変異細胞株を樹立して検討を始めたところである。
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