研究課題
若齢性のアルツハイマー病においてはプレセニリンなどの原因遺伝子が特定されており、遺伝子レベルでの診断も可能となってきているが、高齢者の認知症の大部分を占める孤発性のアルツハイマー病(SDAT)においては遺伝子の異常が認められず、脳内で発生した酸化ストレスによる神経細胞の変性の関与が疑われている。そのため、脳内の酸化ストレス状態の指標の一つとして髄液中のタンパク質の酸化修飾のレベルを調べることで、脳内における酸化ストレスによる神経変性のリスクを予知診断できるのではないかという考えに基づき、酸化タンパク質に標的を絞ってプロテオーム解析を行なった。昨年度の本研究においては、認知症患者髄液中のタンパク質の酸化修飾として主にカルボニル化について解析を行ない、分子量約1万4千の低分子量タンパク質において、患者間でカルボニル化レベルに有為な差が認められたため、今年度さらにそのタンパク質を詳しく調べた結果、アルツハイマー病の原因タンパク質の一つであり神経細胞障害を引き起こすアミロイドベータペプチドと結合性を有するトランスサイレチンである事が判明した。そこで本年度は、さらに症例数を増やして、トランスサイレチンの変動を詳細に調べた。トランスサイレチンのカルボニル化については、認知症患者とコントロール群の間で有意な差が認められないとする報告もあるが、彼らの報告は抗体を用いた検出によるものであり、定量性に問題がある。今回我々が実施した、蛍光プレラベル法による分析では、総タンパク量の変動をベースとする相対定量法を確立することができたので、この技術を利用して患者間の差異を定量的に調べた結果、患者間で有意差が認められ、トランスサイレチンのカルボニル化を定量的に調べることによって、神経変性のリスクファクタである脳内の酸化ストレス環境を知るバイオマーカーとして利用できる可能性があることを示唆するデータが得らており、現在更に詳しい解析を進めている。
すべて 2009 その他
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http://proteome.tmig.or.jp/2D/