研究課題
若齢性のアルツハイマー病においてはプレセニリンなどの原因遺伝子が特定されており、遺伝子レベルでの診断も可能となってきているが、高齢者の認知症の大部分を占める孤発性のアルツハイマー病(SDAT)においては遺伝子の異常が認められず、脳内で発生した酸化ストレスによる神経細胞の変性の関与が疑われている。そのため、脳内の酸化ストレス状態の指標の一つとして髄液中のタンパク質の酸化修飾のレベルを調べることで、脳内において発生した酸化ストレスによる神経変性のリスクを予測し、診断および治療方針の決定につなげるために、酸化修飾を受けたタンパク質に標的を絞ってプロテオーム解析を行なった。これまでの研究の中で、内部標準蛋白質を用いた蛍光二次元電気泳動によるカルボニル化蛋白質の定量分析法を開発し、髄液中のカルボニル化蛋白質レベルの分析を行った結果、認知症患者の髄液においてトランスサイレチンのカルボニル化のレベルが高値を示す傾向が認められている。そこで本年度は、さらに髄液蛋白質におけるシステイン残基の酸化状態についても、内部標準蛋白質を用いた蛍光色素標識法による相対的定量法を開発し、患者髄液中の蛋白質の分析を行った。その結果、カルボニル化同様トランスサイレチンにおいて患者間でシステインの酸化レベルに変化を見いだした。他のアミノ酸残基の酸化修飾との相関性および、アルツハイマー病の症状の進行度とシステインの酸化の関係についてさらに詳細な解析を進めている。今回我々が実施した、蛍光プレラベル法による分析では、総タンパク量の変動をベースとする相対定量法を確立することができたので、この技術を利用して患者間の差異を定量的に調べた結果、患者間で有意差が認められ、トランスサイレチンの酸化レベルを定量的に計測することによって、神経変性のリスクファクタである脳内の酸化ストレス環境を知るバイオマーカーとして利用できる可能性があることを示唆するデータが得らており、現在さらに詳しい解析を行っている。
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