研究概要 |
生活習慣病の危険遺伝子の検索は精力的に行われているが、結論からはほど遠いのが現状である。既報の研究の多くは、生活習慣病についての解析にも関わらず、生活習慣を考慮しては行われておらず、解析のパワー、及び、精度に問題があると思われる。本研究では、生活習慣の詳細な解析データを踏まえて危険遺伝子を検索し、新たな遺伝因子を解明することを目的としている。 G蛋白β3サブユニット(GNB3)遺伝子C285T多型と糖尿病との関連を、その機能(sodium-proton exchangerの活性化)に着目して、塩分摂取量を考慮した上で調べた。[方法]山形県高畠町住民検診に2004及び2005年に参加し、遺伝子を含む本研究に協力の同意を得られた2,956人(男/女 : 1356/1621 ; 平均年齢 : 63.0±10.2)が対象。GNB3遺伝子C825T多型、及び、その周囲の8つの多型をTaqMan法にて解析。遺伝子型による検査値の違い(QT関連解析)、及び、症例対照関連解析を行った。塩分摂取量は、国立健康・栄養研究所の方法(自記式食事歴質問表 : BDHQ)を用いて推定した(n=1,635)。[結果]QT関連解析 : 空腹時血糖値、及び、HbAlc値と本多型は(p=0.002及び、p=0.006)有意に関連した。症例対照関連解析(DM Vs. NGT) : 本多型のTT+TCがCCに比して有意に防御的であった(OR : 0.61、p<0.001)。次に、塩分摂取量に基づき、対象群を高値群(14.44gr/day)と低値群に2分して解析した。QT関連解析では、空腹時血糖値、及び、HbAlc値に対して、低値群ではp値が0.003、及び、0.042と有意であったが、高値群ではとp値が0.129、及び、0.093であった。また、症例対照関連解析でも低値群では、TT+TC Vs.CCのORは0.45、p値は0.005と有意だったが、高値群では、p値が0.501と有意ではなかった。[結語]GNB3遺伝子C825T多型が糖尿病と関連していることを大規模住民検診より明らかにした。また、この関連は、塩分摂取量低値群においてのみ認められた。遺伝子多型X環境因子の相互関係の重要性、また、塩分制限が糖尿病の予防となり得る遺伝子型の存在を示唆するものと思われた。
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