(平成20年度分)ドミニカ共和国(ド国)サント・ドミンゴ市の小・中学生を対象に、文書で説明し両親と児童・生徒の双方から同意が得られた、531名の対象者に対して健康調査を実施した。ド国で得られた血清サンプルは、本邦に輸送し、ヘリコバクタ・ピロリ(H.pylori)抗体、血清ペプシノゲンI、II値、血清ガストリン値を測定した。これらの測定結果とアンケート調査票のデータを併合し、分析の用に供した。現在、アンケート調査票(対象者の属性(調査地域、性、年齢)、対象者の生活習慣(食習慣、食生活など)、生活環境、上部消化管疾患既往歴、及びそれら疾患に関係する自覚症状の有無など)とH.pylori感染及び慢性萎縮性胃炎(CAG)との関連性にっいて疫学的検討を行った。その結果、次のような結果を得た。ド国の若年者(15歳未満)のH.pylori感染率は、男性では、0〜5歳、100%、5〜10歳、79.2%、10〜15歳、64.8%であり (N.S.)、女性では、それぞれ25.0%、31.0%、及び45.6%であった(N.S.)。また、ド国小児のCAG有病率は、男性では、0〜5歳、0.0%、5〜10歳、20.8%、10〜15歳、35.2%であり(p<0.05)、女性では、それぞれ25.0%、31.0%、及び45.6%であった(p<0.05)。本研究のドミニカ共和国でのH.pylori感染症は、報告者らが2001-2002年にドミニカ共和国サント・ドミンゴ市及びサンペドロ・マコリス市の両地域で実施した調査(15〜29歳)によるH.pylori感染率が、男性が50%、女性が45%であったことと比較すると、これちの感染率には差が認められ、H.pylori感染が、1〜2歳未満の幼少期に成立することを考えると、今後10数年後の同国の15〜29歳のH.pylori感染率は、大きく低下すると思われる。一方、小児期のH.pylori感染は、世帯人数や経済状況に関連しているとの報告がなされているが、報告者らが実施したドミニカ共和国の小児の調査においては、ロジスティック回帰分析の結果、H.pylori感染と世帯人数や冷蔵庫、テレビ、コンピュータなどの保有の有無、及び消化器疾患関連自覚症状の問に関連は認められなかった。今後、さらにこれらの収集データを詳細に検討し、H.pylori感染やCAGに関与する因子(食生活、食習慣を含めた生活習慣及び生活環境など)を明らかにするとともに、H.pylori感染からCAGや胃がんへの進展に関与すると考えられているH.pylori菌の病原性(CagAの有無)についても討を行う予定である。
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