研究概要 |
(平成22年度分)ドミニカ共和国(ド国)サントドミンゴ市の保育園児、幼稚園児、及び小学生を対象に、文書で説明し両親と小児・児童の双方から同意が得られた300名の対象者に対して健康調査を実施した。ド国で得られた血清サンプルは、本邦に輸送し、ヘリコバクタ・ピロリ(H.pylori)抗体、CagA抗体、血清ペプシノゲンI、II値、血清ガストリン値を測定した。これらの血清の測定結果にアンケート調査データを加え、疫学的分析を行った。アンケート調査票(対象者の属性(調査地域、性、年齢)、対象者の生活習慣(食習慣、食生活など)、生活環境、上部消化管疾患既往歴、及びそれら疾患に関係する自覚症状の有無など)とH.pylori感染及び慢性萎縮性胃炎(CAG)との関連について疫学的検討を行い、次のような結果を得た。ド国の若年者(12歳未満)のH.pylori感染率は、男性では、2~5歳、0.0%、5~10歳、17.9%、10~11歳、40.0%であり(N.S.)、女性では、それぞれ0.0%、145%、及び25.0%であった(N.S.)。また、ド国小児のCAG有病率は、男性では、2~5歳、0.0%、5~10歳、13.1%、10~11歳、0,0%であり(N.S.)、女性では、それぞれ8.3%、12.8%、及び25.0%であった(N.S.)。本研究のドミニカ共和国における2~11歳の小児のH.pylori感染率(CAG有病率)は、男性、16.9(11.5)%、女性、135(12.8)%(N.S.)であり、報告者が平成21年度にドミニカ共和国サントドミンゴ市の幼稚園、及び小中学校で実施した調査(2~15歳)におけるH.pylori感染率が、男性が31.7%、女性が29.7%であったことと比較すると、かなり低い感染率であった。H.pylori感染が、1~2歳未満の幼少期に成立することを考えると、今後10数年後の同国の15~29歳のH.pylori感染率は、大きく低下すると思われる。一方、小児期のH.pylori感染は、世帯人数や経済状況に関連しているとの報告がなされているが、本年度のドミニカ共和国の小児調査においては、ロジスティック回帰分析の結果、H.pylori感染に年齢は関係していたものの世帯人数の多寡に関連は認められなかった。さらに、自宅の所有形態(持ち家、賃貸、その他)、冷蔵庫、テレビ、コンピュータなどの保有の有無、及び消化器疾患関連自覚症状、既往歴の有無の各因子は、H.pylori感染の有無に影響を与えていなかった。今後、さらにこれらの収集データを詳細に検討し、H.pylori感染やCAGに関与する因子(食生活、食習慣を含めた生活習慣及び生活環境など)を明らかにするとともに、H.pylori感染からCAGや胃がんへの進展に関与すると考えられているH.pylori菌の病原性抗体(CagA抗体)などについても研究を発展させることが,H.pylori感染、CAGの罹患、さらには胃がんの予防に寄与するこになると思われる。
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