今年度は新たな鉱物油の免疫学的影響についての研究を一次休止して、鉱物油の自己抗体誘導のメカニズム解析に注力した。前年度までの研究でT細胞レセプターのCD3ζが自己抗体誘導に関係していることが判明している。また血清中のアルジニンの低下も見られ、アルジニンがCD3ζの低下に関係していることもわかってきた。アルジニン低下には腹腔内の環境が影響しているのでないかと仮説を立てて、今年度研究を開始した。 方法:1)プリステンをBALB/cマウスの腹腔内に投与して3ヶ月後に解剖し、血清を抽出し自己抗体を測定する。2)同時に腹腔細胞と脾臓細胞を摘出し、腹腔細胞数をカウントし、腹腔細胞と脾臓細胞のT細胞レセプターCD3ζを測定する。これらを比較検討した。 まず炎症の強さの指標である腹腔内の細胞数をカウントしてT細胞レセプターCD3ζと比較した。すると、腹腔内の細胞が増加するほど、T細胞レセプターCD3ζは低下した。またT細胞レセプターCD3ζの低下に伴い抗DNA抗体、抗クロマチン抗体の陽性度が高くなっていた。このことから、以下の仮説が立てられる。1)鉱物油を腹腔内に投与すると、非特異的炎症が発生する。2)この炎症によって血中のアルジニンが低下する。3)このアルジニン低下に伴いT細胞レセプターのCD3ζが低下する。4)この低下が自己抗体誘導に関係している。 人SLEにおいてもT細胞レセプターのCD3ζの低下及びアルジニンの低下は報告されており、この動物モデルも人SLEと同様のメカニズムで自己抗体を誘導していることが推測された。この研究を行うことは人SLEの原因を解明するために有益な情報を提供する可能性を秘めていると思われる。 次年度はなぜアルジニンが低下するのか、その代謝酵素について研究を行う予定である。
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