発育・発達期における水銀蒸気曝露が中枢神経機能に及ぼす低濃度水蒸気暴露の影響を出産後から離乳時(0週)までの新生児時期(3週)について検討した。動物は雌性野生型(wild)およびメタロチオネン遺伝子欠損(MT-null)マウスを用い、水銀蒸気曝露は平均水銀蒸気曝露濃度0.057mg/m^3で新生児マウスの離乳時(出産21日)まで行い、生後3ヶ月後に行動試験を行った。曝露終了後に脳内水銀濃度測定やマイクロアレイによる遺伝子解析を行うため一部マウスを屠殺した。行動試験はオープンフィールド、受動回避装置、モリス水迷路装置を用いて行った。行動試験の結果では野生型マウス、MT-nullマウスともに水銀蒸気曝露群とコントロール群との問に著明な差異は認められなかった。脳内水銀濃度はコントロールマウスに比べ、野生型マウス(平均0.38μg/g)、MT-nullマウス(平均0.35μg/g)とも約50倍高値を示した。マイクロアレイによる遺伝子解析では、新生児期における低濃度水銀蒸気曝露により、野生型では発現量が増加した遺伝子数は2、減少した遺伝子数19、MT-nullマウスでは発現量が増加した遺伝子数は4、減少した遺伝子数2であった。なお、変動した遺伝子については現在解析中である。本研究に用いた水銀の許容濃度0.025mg/m^3の約2倍の水銀蒸気曝露濃度0.05mg/m^3では、新生児時期において曝露をうけても、成熟期における行動試験の結果では影響は認められなかった。しかしながら、マイクロアレイによる遺伝子解析の結果では相当数の遺伝子の変動が認められたことから、12週目で行動試験したマウスを1年後にもう一度、行動試験を行い、新生児時期における水銀曝露が加齢によって水銀毒性が発現するか否かを検討する予定である。
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