炎症反応は感染防御に働く重要な生体防御反応である一方で、炎症性サイトカインや活性酸素種の産生により様々な組織機能を損傷する。従って、炎症反応には厳密なコントロールが必要であり、これまでに様々な制御機構の存在が示されて来た。ごく最近、胃から分泌される摂食促進ホルモンとして発見されたグレリンが、免疫系細胞にも発現していて炎症反応の制御に関与していることが示唆された。そこで本研究では、マクロファージの炎症反応制御機構におけるグレリンの役割を解析した。 肥満に起因する様々な病態の根底にある慢性炎症反応には、マクロファージが重要な役割を担っている。そこで、C57BL/6Jマウスを普通食または高脂肪食で6週間飼育した。また、肥満による炎症反応への運動の効果を検討するため、高脂肪食マウスを2群に分け、一方に自走回転ケージによる運動トレーニングを実施した。マウスの体重は、普通食群に比べて高脂肪食群で有意な増加が認められ、高脂肪食運動トレーニングは高脂肪食群より有意に低値を示した。肥満マウス腹腔マクロファージではグレリン発現量が低下し、運動トレーニングにより回復した。一方、炎症性サイトカインTNFα産生能は肥満マウス腹腔マクロファージで上昇し、運動トレーニングにより低下した。腹腔マクロファージまたはマクロファージ細胞株RAW264細胞の培養系にグレリンを添加すると、LPS刺激によるTNFα産生能は抑制された。さらに、RNAi法によりRAW264細胞のグレリン発現量を低下させると、TNFα産生能は増強された。 以上から、1)高脂肪食肥満はマクロファージのグレリン発現量を低下させ炎症反応を増強し、2)運動トレーニングにはそれを抑制する作用があることが示唆された。従って、肥満に伴うインシュリン抵抗性に対する運動トレーニングの改善効果には、マクロファージのグレリンの関与が示唆された。
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