1942年から1991年まで茶石綿と白石綿を使用して石綿製品を製造していた工場の周辺に1992年1月1日時点に居住しており、かつ2007年6月30日時点に本人を含めて家族が1人でも居住している577家族を対象とし、後向きコホート調査を実施した。 解析対象者は協力が得られた502家族の男性951人、女性956人であり、このうち2007年6月30日時点の生存者は男性834人、女性843人であった。生存者の喫煙割合は男性38.8%、女性5.1%であり、全国平均とほぼ同程度であった。2007年6月30日時点の死亡者は男性117人、女性113人であり、全死亡のSMRは男性0.89(95%信頼区間0.74-1.07)、女性1.21(1.00-1.45)であった。 肺がん死亡者は男性22人、女性5人で、標準化死亡比(SMR)は男性2.15(1.35-3.25)、女性1.47(0.48-3.42)となり、男性では有意な過剰死亡が認められた。この中で職業性石綿曝露のない者は男性15人、女性4人であり、SMRは男性1.46(0.82-2.41)、女性1.17(0.32-3.00)であった。対象者を石綿相対濃度により、4つの群に分類して解析したが、石綿相対濃度が最も高いと推定された地域に居住していた群では、職業性石綿曝露のない肺がん死亡者は男性8人、女性3人であり、SMRはそれぞれ2.94(1.27-5.79)、3.52(0.73-10.3)となり、男性では有意に1を超えていた。この結果は、石綿の近隣曝露が周辺住民の肺がんによる死亡を増加させている可能性が示している。 今後、肺がん死亡者の診療情報を取得し、原発部位、病理組織型、胸膜プラークの有無などを明らかにする予定である。
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