1954年から1995年まで白石綿を、1957年から1975年まで青石綿を使用して石綿製品を製造していた工場の周辺の1地区に1975年12月31日時点に居住しており、かつ2007年12月31日時点に本人を含めて家族が1人でも居住している67家族を対象とし、後向きコホート調査を実施した。 解析対象者は調査に協力した52家族の男性101人、女性107人であり、このうち2007年12月31日時点の生存者は男性69人、女性80人であった。生存者の喫煙割合は男性29.4%、女性9.0%であり、全国平均と比較すると、男性では約10%低く、女性はほぼ同程度であった。2007年12月31日時点の死亡者は男性32人、女性27人であり、全死亡の標準化死亡比(SMR)は男性1.09(95%信頼区間0.74-1.53)、女性1.15(0.76-1.67)であった。肺がん死亡者は男性1人、女性3人で、SMRは男性0.55(0.01-3.05)、女性4.74(0.98-13.9)となり、いずれも有意な過剰死亡は認められなかった。中皮腫死亡者は男性1人、女性0人であり、男性のSMRは69.6(1.76-388)と有意な過剰死亡が認められた。なお、肺がん死亡者および中皮腫死亡者の中で職業性石綿曝露のある者はいなかった。 1976年当時の対象地区には、約230家族が居住していたが、その中で家族の少なくとも1人が2007年12月31日まで居住していたのは67家族であり、32年間に約70%の家族の全員が転出あるいは死亡していた。これらの家族も石綿曝露の可能性があるが、今回の調査では、情報を得ることは困難であると考え、対象者から除外した。これらの中に全員が死亡した家族が多い場合は、今回の調査結果は過小評価となっている。また、調査対象者が67家族と少なく、かつその中で協力が得られたのが52家族であり、追跡率が77.6%とやや低かった。このため、調査結果の解釈が困難であるが、女性の肺がん死亡のSMRが4.74であるのは注目に値する。
|