作業療法科学に基づき、高齢者が自宅に居ながら、しかも個々人の特性に合わせて生活機能向上を図れる「在宅高齢者生活機能向上ツール(FIT)」を開発し、介入対照研究によりその効果を検討した。対象は、北海道内2町在住の65歳以上高齢者のうち、基本チェックリストで1項目以上チェックの付いた者、特定高齢者、要支援1・2、要介護1の者のうち同意を得た328名である。うち、生活機能、主観的健康感等を測定する事前評価を252名に実施した。その後、対象者を無作為に介入群(128名)と対照群(124名)に分け、介入群には保健師ら訪問者が月1回の計3回の予防型家庭訪問を行い、FITを用いた介入を行った。介入終了後、事前評価と同様の調査項目で199名(男60名、女139名、平均年齢78.6±7.4)に対し事後評価を実施し、前後比較を行った。介入の有無による認知機能得点差異変化では、介入前後のMMSE得点変化は、介入群0.8±0.3点、非介入群-0.1±0.2点であった。事前評価のMMSE得点、年齢、性別で補正した共分散分析を実施した結果、非介入群と比較して介入群のMMSE得点変化が有意に高かった(p=0.04)。認知機能重症度別介入の有無による認知機能得点差異変化をみると、軽症認知機能障害群において、非介入群と比較して介入群のMMSE得点変化が有意に高かった(介入群の特典変化18から23へ上昇、介入群対非介入群得点1.9±0.5対-0.1±2.8、p=0.04)。一方、重度認知機能障害群、認知機能障害なし群においては、介入群と非介入群のMMSE得点変化に有意差を認めなかった。さらに、家庭訪問終了後に感想を尋ねるアンケートを実施したところ、生活そのものの変化では、計算や書字など具体的な作業や「自信を持った」との回答を認めた。本結果により、FITが容易かつ安価に作成できるという利便性だけでなく、高齢者の生活改善も併せ持つ有用なツールとなる可能性が示唆された。
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