研究概要 |
[目的]家庭における自己測定血圧(家庭血圧;HBP)は、白衣高血圧や仮面高血圧の同定が可能であり、外来随時血圧(CBP)に比べ予後予測能に優れている。仮面高血圧者の予後は悪く、心血管疾患・脳卒中発症リスクは持続性高血圧者と同程度である。高血圧診断にHBPを導入することで、仮面高血圧を早期に発見し適切な管理・指導を行えれば、高血圧の予防・治療の適正化による生存年数の延長や合併症治療に関わる医療費・介護費の削減など、様々な効果が期待される。 [方法]本邦の40歳以上の治療中CBPコントロール良好(<140/90mmHg)者に対する、HBPに基づく高血圧診療(HBP導入モデル)とCBPに基づく高血圧診療(HBP未導入モデル)を比較した。HBP測定導入により、費用が減少し効果が増加した場合を費用対効果に優れる(cost-effective)とした。費用・効果ともに増加した場合は、増分費用対効果比(Incremental Cost-Effectiveness Ratio ; ICER)を算出し、ICERが500万円/QALY以下であればcost-effectiveとした。費用は一生涯の総医療費、介護費とし、効果は質調整生存年数(Quality-Adjusted Life Years ; QALYs)とした。分析にはマルコフモデルを用いた。 [結果]HBP測定の導入により総医療費は、男性の50代、60代、70代以上で減少し、男性の40代と女性の各年代で増加すると推定された。QALYsは全ての性・年代で増加すると推定された。ICERは、男性40代で88万7325円/QALY、女性40代が最大で169万4,371円/QALY、女性50代で41万9598円/QALY、女性60代で11万4424円/QALY、女性70代以上で26万7167円/QALYであった。 [結論]外来血圧コントロール良好の高血圧患者におけるHBP導入は、全ての性・年代において、cost-effectiveであることが示唆された。仮面「コントロール不良」高血圧の同定は、医療経済的にも重要な意味を持つと考えられる。
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