本研究は高齢者の将来の転倒・つまずきのリスクを身体機能測定によって予測・評価するマーカーを開発することを目的としている。平成22年度は身体機能評価法の一つとして篠田が開発した最大3歩幅の妥当性を確かめるために、従来開発され、使用されてきた筋力と平衡性機能を合わせた評価法である最大1歩幅との関係を検討した。また、歩行能力の基礎となる下肢筋群筋力並びに筋力バランスと転倒・つまずきとの関係について検討した。 その結果、最大3歩幅と最大1歩幅は強い正の相関関係があることが示された。また、転倒予防教室やウオーキング教室のベースライン値と終了後の記録を比較すると、最大3歩幅は有意に増加した。 判別分析により、下肢筋群筋力のうち、股関節伸展ならびに膝関節屈曲に関わる筋力が転倒・つまずきを判別するうえで重要であることが明らかとなった。線形判別関数はz=0.007×(開眼片立)+0.880×(最大3歩幅身長比)-3.667×(股関節屈曲体重比)+3.218×(膝関節伸展体重比)+18.500(股関節伸展体重比)-13.554(膝関節屈曲体重比)-3.804である。下肢筋群の筋力が201b(9.08kg)を下回ること、拮抗筋間の屈曲-伸展比で0.55を下回ること、左右差が15%を超えることが転倒傾向のある者の間で多いことが示された。また、集積したデータから、高齢者女性における最大3歩幅の標準値を年齢段階ごとに試案を作成した。男性のデータ数が少ないために分析が困難であり、標準値の試案を作成するには至らなかった。 高齢者女性の転倒・つまずきリスクを予測するマーカーとして、最大3歩幅は有用であることが示唆された。また、下肢筋群筋力測定値、筋力バランスもまた、予測マーカーとして有効であり、特に股関節伸展ならびに膝関節屈曲に関わる筋力が重要であることが示された。
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