多くの欧米および日本での研究より、魚油の有効成分であるエイコサペンタエン酸(EPA)およびドコサヘキサエン酸(DHA)が心筋梗塞の予防に有効であることが判明したが、魚を多く食べる日本の疫学調査では、血中の脂肪酸構成を調査したものがなかった。そこで一昨年度は、多目的コホート研究(JPHC Study)の被験者を利用して、血液中の脂肪酸分析を行い、更に昨年度は追加分303人分(心筋梗塞+対照患者)の脂肪酸解析を行った。 その結果、目的としていた血中EPA、DHAなどには、心筋梗塞と対照患者との間には有意な差は認められなかった。また、様々な交絡因子(年齢、性別、アルコール摂取量、喫煙歴、生活活動強度、総コレステロール値、BMI、収縮器血圧、高血圧薬の有無、糖尿歴、高脂血症服薬の有無、CRP値)で補正した条件付きロジスティック回帰分析を行った結果からも、EPAやDHAなどには予防効果は認められなかった。この理由としては、日本人は全体的にもともと魚をよく摂取しており、ベースの血中ω3系多価不飽和脂肪酸(EPA、DHA)が高いためと考えられた(欧米人の約2倍程度)。またその他、ω6系多価不飽和脂肪酸であるアラキドン酸(AA)や、動脈硬化度と負の相関のあるEPA/AA比でも両群間で有意差は認められず、条件付きロジスティック回帰分析でも有意差は認められなかった。更には飽和脂肪酸であるステアリン酸やパルミチン酸、ω9系多価不飽和脂肪酸であるオレイン酸などにおいても、有意差は認められなかった。 この結果については、今後研究分担者である岩崎基研究員(国立がんセンターがん予防・健診研究センター、実務責任者)とともに、国立がんセンターがん予防・健診研究センターの運営委員会にて報告後、学会発表および論文投稿を行う予定である。
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