研究概要 |
メタボリックシンドロームをはじめとする生活習慣病対策は急務の課題である.本課題では,予防医学的または健康科学的設定における生活習慣病に対する健康教育の評価指標として,酸化LDLや酸化ストレスの関連分子マーカーを測定する意義を検証している.これらの新規分子マーカ0の測定は,一般的な健診検査指標に加えて,病態の詳細な推移を捉え,健康教育の効果を鋭敏に表す,あるいは新たな情報を付与する可能性がある.初年度に続いて今年度は,さらに対象を増やして検討を蓄積した.まず,今回,男性集団(127名,平均56歳)において,禁煙やその再発防止を一目的とした介入研究を行い,酸化LDLの一種の血清アミロイドA-LDL複合体(SAA-LDL)を計測した.介入前調査で禁煙の期間とSAA-LDL値は負相関し,禁煙後数年を経過している群のSAA-LDL値は喫煙未経験群のレベルと同等であった.この結果は,禁煙しても直には血管の炎症は軽減しない可能性を示唆しており興味深い.禁煙介入の新たな中長期指標になる可能性さえある.次いで,別の集団(38名,平均66歳)で運動量の増加を一目的とした介入研究を行い,酸化LDLの一種の血清マロンジアルデヒド修飾LDL(MDL-LDL)を計測した.介入前調査で歩数を1週間に渡って算出したところ,日常的平均歩数とMDA-LDL値は有意に負の相関を示した.この結果は,身体活動量が生体内の酸化の程度や血管の炎症を規定する可能性を示唆しており,また興味深い.酸化分子マーカーが酸化,炎症さらに血管の様子を同時に表現しているとする知見を踏まえ,今回のような生活習慣と関連した結果を考案すると,一般的な健診検査指標を凌駕した次元で,同マーカーの健康教育的活用が展望できると思われる.今後,生活習慣病とその生活習慣の介入における酸化分子マーカーの関連や意義の検討をさらに継続し,同マーカーを含む評価指標を採用した健康教育システムについて提案することを目指す予定である.
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