研究概要 |
本研究の目的は、原爆被爆者白血病及び骨髄異形成症候群(MDS)について詳細な発生リスク評価をめざすものである。1)被爆者MDS発生リスク:最終解析を行ったあと国際ジャーナルへ投稿し、2010年12月受理された(J Clin.Oncol.)。長崎大学被曝者コホートにおいて、MDS発生は近距離被爆ほど有意に高く、被爆距離1kmあたりの過剰相対リスク(ERR)の減衰は1.2(95%信頼区間,0.4-3.0;P<0.001)であった。放射線影響研究所の寿命調査集団LSS長崎コホートにおいては、MDS発生と被曝線量には有意な線量反応関係があり、1GyあたりのERRは4.3(95%信頼区間,1.6-9.5;P<0.001)であった。性・到達年齢・誕生年を調整した解析において、MDS発生リスクは若年被爆者(被爆時年齢20歳以下)で有意に高値であった。さらに、白血病に移行しやすい高リスクのMDS (RAEB/RAEB-t)のほうが、白血病に移行しにくい低リスクMDS (RA/RARS)よりも近距離での発症リスクが高かった。2)FAB分類、WHO分類に基づいた被爆者白血病の発症リスク:腫瘍登録より確定した312例の被爆者白血病症例を見直し、そのうち74例について、正しいFAB分類コード、WHO分類コードへの修正を行った。今後、病型別の発症率と被曝線量との関連を解析する予定である。3)被爆者MDSの白血病進展と放射線曝露の関連:被爆距離2.5km以内の被爆者のほうが、被爆距離2.5km以遠の被爆者より、白血病進展率が高い傾向にあった(P=0.08)。症例収集が不十分なため、さらなる調査が必要である。4)被爆者MDSの染色体異常の特性:被爆者MDSのうち染色体検査結果が得られた107例について、複雑型染色体異常の発生頻度と被爆距離との関連を調べた。被爆距離<1.5kmの高リスクMDS症例は、複雑な染色体異常を呈する頻度が高かった(P=0.06)。
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