研究概要 |
本研究は、継続追跡中の地域コホート研究参加者26,469名の住所について丁目単位の地理的情報を付加することにより、脳卒中罹患に影響する地理的要因を検討することを目的とする。全参加者の住所を丁目あるいは集落単位で分類し、その中心地および周辺地について1/25000地形図、数値地図、50mメッシュ標高データを利用して標高、土地利用状況、最寄りの川、海、学校、役場等への距離をデータ化した。測定地点は2,162箇所となった。また、国勢調査結果から該当地区の人口密度を入力して解析の調整因子に用いた。研究開始時40歳以上かつ脳卒中既往のない24,491名の居住地標高四分位別にみた脳卒中罹患の多変量調整ハザード比は、最も低地の居住群(Q1,-18m)に対しQ2(-106m)で男1.16(95%CI 0.78, 1.74)、女1.11(0.74, 1.67)、 Q3(-200m)で男1.66(1.12, 2.47)、女1.65(1.11, 2.45)、Q4で男1.52(0.99, 2.34)、女2.31(1.53, 3.51)と、居住地標高が高いほど脳卒中罹患のリスクが高い傾向がみられた(傾向性検定男0.091、女<0.001)。このなかで特にQ1は沿岸および沿岸近くの谷部に集中しており、沿岸のライフスタイルが標高そのものとは関係なくQ1での罹患率を大きく下げている可能性があるが、海岸から1km以内の地域を除いた解析、さらに川から100m以内の地域も除いた解析においても、Q2~Q4のQ1に対するハザード比は高く、標高が低い地域での居住は海岸や海岸沿いの谷から離れていても脳卒中罹患に対して保護的に働くものと考えられた。 本研究対象地域は3月に甚大な津波被害を受けて多くの尊い命が失われた。哀悼の意を捧げるとともに、この被害が今後中長期に被災者に及ぼす影響について確認して保健施策の一助としたい。
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