研究概要 |
現在,高度に腐乱した水中死体において有効な溺死の検査法はDiatom testのみである.そこで,従来の珪藻検査と共に,新たな生物学的指標として水棲細菌の検査も行うことができれば,溺死の診断精度の向上に貢献できるのではないかと考えた.しかし,これまでの我々の生菌を検出する検査法では高度に腐乱した水中死体において利用できなかった.そこで分子生物学的手法を用いて水棲細菌を検出する方法を開発すれば,高度に腐乱した水中死体においても利用できるのではないかと考えた.平成20年度は指標とする細菌種を決定するために,河川中流の淡水域(n=10),汽水域を含む河口周辺水域(n=68),沿岸の海水域(n=10)から水を採取し,これを血液に添加後平板培養を行い優勢種となる細菌を調査した.その結果,河川淡水域の水(塩濃度≦0.05%)を用いると淡水性の細菌のみ(Aeromonas spp., Pseudomonas spp.など)が優勢種として認められ,一方沿岸の海水域の水(塩濃度3.0-3.5%)では海水性の細菌のみ(Vibrio spp., Photobacterium spp., Pseudoalteromonas spp.など)が優勢種として認められた.また河口周辺の水(塩濃度≦0.05-3.3%)では塩濃度が1.3%以下で淡水性の細菌のみ,1.8%以上で海水性の細菌のみが認められた.更にそれらの結果に基づき海水の指標としてVibrio属,Photobacterium属,Shewanella属に対して特異的なプライマ-を,また淡水溺死例についてはAeromonas属,Plesiomonas属に対して特異的なプライマ-を各々設計し,Real Time PCR法の検討を行った.しかし,近縁な種および高度に腐乱した遺体から得られた血液試料に対して,まだ充分な特異性が得られていないため今後さらに検討を続け,その有効性を明らかにする.
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