創傷における血管新生の形態学と、これに働く因子の動態を明らかにすることは、創傷治癒過程を明らかにするために重要であり、さらに、法医鑑定において創傷の時間経過を明らかにするために重要である。本研究者らは、これまで、ラット皮膚創傷の治癒過程における血管再生において、早期からVEGF産生が認められ、これが創傷部に浸潤する多形核白血球による可能性を免疫組織化学的に示してきた。そこで、ラットにシクロホスファミドを投与して白血球を減少させた条件で創を作成してVEGF産生を検討することにより、創傷部におけるVEGF産生が創局所に浸潤する多形核白血球による可能性を明らかにしてきたが、本年、これを論文として報告した。また、本研究者らは昨年度までに、リンパ管修復過程の形態学が血管と異なっていることを明らかにしてきた。すなわち、リンパ管は、創修復部には伸びていかず、創中心部が瘢痕収縮により縮んでいくのに伴って、周囲の健常部の結合組織が創中心部に近づいていき、その中のリンパ管が創中心部に近づいていくことを示し、血管が創中心部に早期から伸び出していくのとは、修復形態が大きく異なることを明らかにしてきた。また、透過型電子顕微鏡像では、血管新生部位に内皮細胞の分裂像を観察していたが、本年度は、光顕レベルにおいてPCNA免疫染色による検討を行ったところ、早期の創部内皮細胞で分裂細胞と考えられる細胞が確認され、その時間的経過を検討したところ、創作成後早期に陽性となる傾向が見られた。
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