法医学分野では、比較的若年者で死亡時の状況からは何らかの心臓性突然死が強く疑われるものの、解剖によっても死因を明らかとすることができない症例があり、原因不明の突然死と呼ばれる。こうした症例は、死因を明らかとするという法医解剖の目的の一つを果たすことができず、社会的に問題が大きい。本研究は、こうした問題を解決するために、原因不明の突然死症例に致死性の不整脈の原因遺伝子の変異が関与した症例があるかどうかについて検討を行うものである。 本年度も、昨年度にひきつづき致死性不整脈原因遺伝子の一つであり、細胞内のカルシウム濃度の調節を行っている心筋型リアノジン受容体遺伝子の変異の検索をおこなった。私どもはすでに3症例に遺伝子の変異を発見した(学内のヒトゲノム解析倫理委員会承認済み)。今年度中に解剖をおこなった症例については、原因不明の突然死症例はなく、解析をおこなわなかった。 こうした研究は、死因を明らかとするという解剖本来の目的を達成するという意味ばかりでなく、仮に遺伝子変異が発見され、その変異が突然死の原因として危険性があると判断されるような場合には、適切な倫理的配慮を講じた後に、遺族の遺伝子変異解析をおこない、保因者の心臓性突然死を未然に防止する等の可能性をひらくものであり、社会的に意義の大きい研究と考える。法医学領域では、まだ症例の遺伝子解析については、一般的とはなっていないが、今後は検討する必要性が生じるものと予想される。
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