研究課題
目的:動物モデルにおいて、メシル酸カモスタットは拘束ストレス後に誘発される内臓知覚過敏性亢進を低減させることが報告されている。本研究課題において、メシル酸カモスタットは過敏性腸症候群(irritable bowel syndrome : IBS)患者の内臓知覚過敏性ならびに大腸運動反応性を正常化させるという仮説を検証した。方法:Rome III診断基準を満たすIBS患者32例(女性16例、平均年齢23歳)を対象とし、16例のメシル酸カモスタット服用群(600mg/日)と16例のプラセボ服用群に無作為に振り分けた。プライマリー・エンドポイントとして、治療14日目に最近1週間における満足な改善(adequate relie : AR)が「あり」と回答したものを有効例とした。さらに、治療前後の症状重症度、血中免疫活性、ならびにバロスタットを用いて直腸疼痛閾値と直腸運動を測定し比較した。治療14日目にはコルチコトロピン放出ホルモン(corticotropin-releasing hormone : CRH,2μg/kg)負荷試験による直腸運動の変化を観察した。成績:両群において治療改善効果を示した割合は有意な違いを示さなかった(38%vs.50%)。メシル酸カモスタットによって、両群それぞれの症状重症度、血中免疫活性、直腸疼痛閾値、直腸平滑筋トーン、収縮回数の有意な変化を認めなかった。両群とも、明らかな副作用を認める症例、途中脱落例は1例も認められなかった。結論:メシル酸カモスタットによって約4割の患者にIBS症状の改善を認めたが、その有効性はプラセボと同等であった。高用量を用いた動物実験と異なり、600mg/日のメシル酸カモスタット服用によってBS患者の内臓知覚、大腸運動反応、血中免疫活性を変化させなかった。今後、IBSに対する蛋白分解酵素阻害薬の効果に関するさらなる研究が期待される。
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