研究概要 |
老人性全身性アミロイドーシス(SSA)は,野生型トランスサイレチン(TTR)由来のアミロイドが全身臓器に進行性に沈着する予後不良の疾患であるが,根本的な治療法は存在しない.申請者らは,TTR蛋白の四量体が単量体に解離し変性(ミスフォールド)することが本疾患の根本的な原因であることを見いだした.そこで,TTR四量体構造を安定化させる薬剤を用いてSSAを治療する方法論を確立することが本研究の目標である.そこでまず,本症の正確な有病率や臨床像を明らかにする目的で,手根管症候群開放術を施行された患者の免疫組織学的および分子生物学的解析を行った. その結果,手根管症候群患者46名中146名(34%)に滑膜組織へのアミロイド沈着を認め,その全てがTTR由来のアミロイドであった.年齢別に検討すると,アミロイドの陽性率は50歳未満で7名中0名(0%),50歳代で9名中2名(22%),60歳代で8名中1名(13%),70歳代で12名中7名(58%),80歳代で5名中4名(80%)であり,加齢とともに陽性率は上昇した.男女別のアミロイドの陽性率は,男性が10名中7名(70%),女性が36名中9名(25%)であり,男性で陽性率が高い傾向にあった.TTR遺伝子の解析は,これまでに11名で終了し,全例が野生型TTRによるSSAと診断した. 以上から,高齢男性の手根管症候群患者にSSA患者が多数存在することが明らかになった.これらの患者の希望者に対して,TTR四量体構造を安定化させる薬剤(diflunisal)を用いた治療を開始し,現在治療効果を判定中である.
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