研究概要 |
老人性全身性アミロイドーシス(SSA)は,野生型トランスサイレチン(TTR)由来のアミロイドが心臓や手根管組織を中心とする全身臓器に進行性に沈着する予後不良の疾患であるが,根本的な治療法は存在しない.申請者らは,TTR蛋白の四量体が単量体に解離し変性(ミスフォールド)することが本疾患の根本的な原因であることを見いだした.そこで,TTR四量体構造を安定化させる薬剤を用いてSSAを治療する方法論を確立することが本研究の目標である.本年度はまず,昨年度に引き続き,手根管症候群開放術を施行された患者の免疫組織学的および分子生物学的解析を行った. その結果,特発性手根管症候群患者100名中34名(34.4%)に滑膜組織へのアミロイド沈着を認め,その全てがTTR由来のアミロイドであった.更に,TTR遺伝子の解析で全例が野生型TTR由来のアミロイドであることを確認した.また,対照として生前にCTSを認めなかった剖検患者32名の手根管組織の検討も行いロジスティック回帰分析を用いて統計学的に解析したところ,手根管症候群患者群では対照群に比べ有意にアミロイド陽性率が高く(オッズ比15.8),「加齢」および「男性」が手根管への野生型TTRの沈着の独立した危険因子であることが明らかになった. 次に,上記のスクリーニングで発見された患者の希望者および心不全で診断されたSSA患者に対して,TTR四量体構造を安定化させる薬剤(diflunisal)を用いた治療を開始し,全例で血清中TTR濃度の上昇とTTR四量体構造の安定化を認めた.現在長期的な臨床効果の評価を継続している.
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