研究概要 |
ストレスに対する生体の反応には交感神経-副腎髄質系が大きな役割を担っており、この系の過度の反応は高血圧症、虚血性心疾患、消化性潰瘍、免疫能低下による発癌等を引き起こす。私たちはこれまで、ラット脳室内に種々の神経伝達物質(CRF, Bombesin,バソプレッシン、ヒスタミン等)を注入することによる交感神経-副腎髄質系の中枢性賦活に脳内のアラキドン酸カスケード系が関与すること、さらにバソプレッシンによるアラキドン酸の生成に脳内ホスホリパーゼC-ジアシルグリセロール(DAG)リパーゼーモノアシルグリセロール(MAG)(=2-アラキドノイルグリセロール,2-AG)リパーゼ経路が関与すること、この過程で生成される2-AGがエンドカンナビノイドとしてカンナビノイド(CB)-1受容体を介して交感神経-副腎髄質系の賦活を中枢性に抑制することを世界で初めて明らかにした(Shimizu and Yokotani,Eur.J.Pharmacol.582,62-69,2008)。この脳内CB系の抑制作用がストレス関連疾病の予防と治療法の開発に寄与する可能性がある。 今年度においては、この脳内CB系の抑制機構が、CRFによる中枢性交感神経-副腎髄質系の賦活においても存在し機能することを明らかにした(投稿準備中)。また、脳内ニコチン受容体刺激(脳内アセチルコリン系の賦活)およびニューロメジンーU受容体の刺激が、アラキドン酸カスケード系を介して副腎髄質系を賦活することを明らかにし、これらの賦活経路へのCB系の関与も検討中である。さらに、視床下部室傍核の脊髄投射性ニューロンの標識に成功した。つまり、交感神経-副腎髄質系の中枢性賦活中枢は室傍核に存在して単シナプス性および複シナプス性に脊髄側角に存在する交感神経細胞体に分布する。今回、脊髄(Th8,9)の側角に微量注入したFluoro-gold(単シナプス性、逆行性トレーサー)による室傍核ニューロンのラベリングに成功した(Yamaguchi et al.,2009,in press)。今後、このラベルされたニューロンにおけるCB-1受容体の存在を明らかにする。
|