1.がんの薬剤耐性に対する漢方薬の効果の解析: がんの薬剤耐性を解除しうる漢方薬を見出すことを目的とし、 MDR-1を高発現するヒト骨髄性白血病細胞K562/ADM細胞を用いて、 MDR-1の基質である蛍光色素Calcein-AMの細胞内取り込み量を指標とし、漢方薬8処方について評価した。培地に各漢方薬エキスを種々の濃度で添加し、 Calcein-AMの細胞内量をフローサイトメーターで測定した結果、十全大補湯・人参養栄湯・八味丸の3処方において、細胞内Calcein-AM量が増加することが明らかとなり、その分子機構としてMDR-1の薬剤排出活性の阻害が示唆された。効果を認めた漢方処方について、培養系での詳細な分子機構の解析や薬剤耐性の解除効果の検証、さらにin vivoでの抗がん剤治療モデルにおける薬剤耐性の解除の検証を目指し、ヌードマウスに移植可能な上皮系癌細胞株であるヒト肝癌由来HuH7細胞に着目し、抗癌剤イリノテカンの耐性株の樹立を開始した。イリノテカンの活性代謝産物SN-38存在下でHuH7細胞を培養し、耐性クローンの単離を継続している。次年度は、イリノテカン耐性HuH7細胞を用いて分子機構の解析および薬剤耐性の解除効果を検証する。 2.膠原病の薬剤耐性に対する漢方薬の効果の解析: 本研究において八味丸に薬剤耐性を抑制する効果があることが示唆されたことを踏まえ、膠原病の症例における八味丸の有効性について検討した。ステロイド減量困難となったMikulicz病で八味丸の証に合致した患者に、ステロイドと八味丸を併用したところ、ステロイド量を減量することに成功した。したがって、八味丸はMDR-1を阻害することでステロイド耐性から回復させると考えられ、ステロイド減量困難症例の新たな治療法として期待される。本結果は、臨床報告として日本東洋医学会誌への掲載が決定された(印刷中)。
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