1. がんの薬剤耐性に対する漢方薬の効果の解析: 昨年度、MDR-1高発現ヒト骨髄性白血病細胞K562/ADMを用いて漢方薬の薬剤耐性阻害効果を解析した。本年度は、上皮系癌細胞における阻害効果を解析するために、ヒト肝癌由来HUH-7細胞からMDR-1高発現株の樹立を試みた。HuH-7細胞をMDR1の基質であるパクリタキセル存在下で培養し、生存細胞をクローニングし、MDR-1高発現株をリアルタイムRT-PCRでスクリーニングした結果、MDR-1遺伝子の発現量が親株より78倍高い細胞株(Pac-1)を得た。パクリタキセル耐性能を評価した結果、親株のIC50値が10 nMだったのに対し、Pac1では280 nMであった。また、Pac-1はMDR-5の基質であるCalcein-AMの取り込み量が減少しており、MDR-1阻害剤であるシクロスポリンで解除された。現在Pac-1を用いて、漢方薬による阻害効果の解析を進めている。 2. 膠原病のステロイド耐性に対する漢方薬の効果の解析: 昨年度、本研究で見出した八味地黄丸の薬剤耐性抑制効果を踏まえ、ステロイド減量困難なMikulicz病患者に八味地黄丸を併用した結果、ステロイド減量に成功した。本年度は、薬剤耐性を抑制するシクロスポリンのような免疫抑制剤で問題となる制御性T細胞の活性の抑制が、八味地黄丸で生じないか検討した。ステロイド剤内服中のMikulicz病患者に説明と同意のもと、八味地黄丸服用前後の末梢血中の制御性T細胞(CD4+CD25+細胞)の比率をフローサイトメトリーで評価した結果、ステロイド投与一カ月後で0.37%であったが、八味地黄丸の追加投与一カ月後には4.58%に増加した。八味地黄丸は制御性T細胞の活性を抑制せずステロイド抵抗性を解除することが期待され、従来の薬剤にはない新しい治療戦略を提供できる可能性がある。
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