1.がんの薬剤耐性に対する漢方薬の効果の解析 昨年度ヒト肝癌由来HuH-7細胞から樹立した、MDR-1高発現の薬剤耐性株Pac-1細胞を用いて、MDR-1の基質である蛍光色素Calceinの細胞内への取り込み量を指標とし、漢方薬エキス原末26処方のMDR-1の抑制効果を解析した。その結果、五苓散、補中益気湯、人参養栄湯、防風通聖散、および三黄潟心湯が、Pac-1細胞へのCalceinの取り込み量を有意に増加させることが明らかとなった。これらの漢方薬は、抗癌剤や放射線療法の副作用の軽減、腹水・胸水の治療など、癌治療の補助療法に用いられている。本研究の結果からこれらの漢方薬がMDR-1の薬物排泄作用を阻害し、抗癌剤の癌細胞内への取り込みを増加させることが示唆されたことから、抗癌剤との併用により、薬剤耐性を抑制し、抗癌剤の有効性を高める効果を有するものと期待された。 2.膠原病のステロイド耐性に対する漢方薬の効果の解析 本研究で見出した八味地黄丸の薬剤耐性抑制効果を踏まえ、ステロイド減量困難なミクリッツ病患者に八味地黄丸を併用することでステロイド減量に成功している。本年度は、薬剤耐性を抑制するシクロスポリンのような免疫抑制作用が八味地黄丸投与で生じていないか、臨床治療例について調べた。プレドニゾロン15mg/日による内服治療を1カ月経過したIgG4関連ミクリッツ病の患者(58歳女性)に対し、八味地黄丸料エキス(6g/日)を1カ月内服させた。八味地黄丸投与前と投与1カ月後の時点で採血し、末梢血中のCD4+CD25+細胞(制御性T細胞)の含有率をフローサイトメトリーで解析した結果、0.37%から4.58%に増加していることが明らかとなった。八味地黄丸は、制御性T細胞活性を抑制することなくステロイド抵抗性を解除することが示唆され、ステロイドの減量・離脱に有効であると期待された。
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