2009年にIARCは、アルコールの代謝産物であるアセトアルデヒド(AA)を、「ヒトにおける食道癌、頭頸部癌の明らかな発癌物質である」と認定した。しかし、なぜAAがこれらの癌を引き起こすのかはまだ不明である。本研究では、ヒトと同様に飲酒後にAAが蓄積するアルデヒド脱水素2型酵素(ALDH2)欠損マウス(ALDH2KOマウス)とAAが蓄積しにくいALDH2正常マウスを用いて、飲酒後の食道内のDNA損傷を検討した。食道内のデオキシグアニンのAA付加体(N2-ethylidene-dG)は、水摂取群ではALDH2野生型とALDH2KOマウスにアダクト数に差はなかったが、エタノール投与群では有意にALDH2KOマウスで高いアダクト数を示し、飲酒後の食道のDNAの傷損傷は遺伝子型によって異なることが示された。癌抑制遺伝子であるp53はDNA修復にも重要な働きをしているため、ALDH2KOマウスにp53遺伝子のダブルノックアウトマウスを作成し、飲酒後のアダクト数を検討したが、ALDH2野生型/p53野生型、ALDH2欠損型/p53ヘテロ欠損型、ALDH2欠損型/p53ホモ欠損型においてDNAアダクト数に差が認められなかった。したがって、飲酒後のDNA損傷の修復はp53以外の分子機構が働いている可能性がある。アセトアルデヒド暴露後のN2-ethylidene-dG数の半減期を浮遊系癌細胞(HL60)を用いて計測すると、約35時間であることが推定された。この結果より、日常的に飲酒をしていると体内でのDNA損傷は蓄積してく可能性が示され、慢性的なDNA障害が発癌を引き起こす可能性があると考えられた。生体呼気中のAAを簡便に測定するために、光触媒を用いた簡易呼気測定装置を開発しc^<13>標識エタノールによる測定系を作成した。また半導体ガス分析器で低濃度のAAを測定できる系も作成した。
|