我々はこれまでゲノムコピー数解析法であるDigital Genome Scanning (DGS)法を用いて胃癌におけるKRAS遺伝子の増幅を同定することに成功した。さらに我々は増幅したKRAS遺伝子をsiRNAによりノックダウンすることにより、胃癌細胞の増殖が強く抑制されることを確認した。増幅したKRASとそれに依存するシグナル経路を標的とした分子標的個別化治療の開発を目的として各種低分子化合物によるKRAS関連シグナル抑制が胃癌細胞の増殖に及ぼす影響を解析した。KRAS関連シグナル阻害低分子化合物としてMAPキナーゼ経路を阻害するMEK inhibitor(U0126)、PI3K-AKT経路を阻害するPI3K inhibitor(LY294002)、KRAS活性化に必要なファルネシル化を阻害するfarnesyl thiosalicylic acidを用いた。U0126に対するGI50 (concentration required for 50% inhibition of growth)を薬剤処理後48時間で解析したところ、野生型増幅KRASを持つMKNI細胞が最も高い値(54.4uM)を示した。しかしKRAS遺伝子変異の有無とU0126の感受性との間には相関が認められなかった。FTSは1〜100uMの濃度ではほとんど増殖抑制効果を示さず、細胞株間の差も認められなかった。またLY294002のGI50はPIK3CAの変異をもつAGS細胞が4種の細胞株の中で最も高い値(16.4uM)を示したが、同じくPIK3CA変異をもつMKNI細胞は最も低い値を示した。以上から、野生型KRAS遺伝子の増幅は、MEK阻害剤に対する抵抗性を予測する指標となりうることが推測された。
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