本研究は申請者が独自に研究を展開してきたCEACAM1分子によるリンパ球の機能調節に注目し、腸管粘膜における免疫学的恒常性の維持におけるその作用意義について着目している。その結果、本研究では当該研究期間に以下のような成果が得られた。1)レトロウイルスベクターを用いた過剰発現系では、CEACAM1によって炎症性腸疾患の病態を形成する様々な炎症性サイトカインの産生がT細胞受容体シグナルの抑制を介して阻害されることが示唆された。またそれ以外にも様々なサイトカイン受容体の発現や、それによるシグナル伝達が阻害されることも示唆された。さらにこうしたシグナル阻害によって細胞増殖能や細胞の分化などにも影響を与えることが明らかとなった。こうしたCEACAM1の作用には、何らかのチロシンキナーゼの介在が必要であることが推測された。2)CEACAM1トランスジェニックマウスの解析では、脾臓など網内系の中枢では顕著でないものの、末梢リンパ節や腸管粘膜局所におけるリンパ球集団に大きな変化をもたらすことが明らかになった。これらの研究結果はCEACAM1が腸管粘膜の免疫調節に深く関与する事実を暗示するものと思われる。さらにこの分子が炎症性腸疾患の病態においてその治療標的になりうることが示唆され、今後の研究成果が期待されるものと思われる。
|