我々は、これまでにインスリン様増殖因子(IGF)に対する中和抗体を用いて、前立腺癌、多発性骨髄腫の骨転移および大腸癌肝転移の系においてIGFの治療標的としての有用性を証明してきた。しかしながら骨転移の実験系はヒトの骨をマウスの背中に生着させ、かつそこに腫瘍を移植するという複雑な系であったため、多数例での検討が困難であった。一方、より簡便な系である大腸癌細胞の脾臓注入によって作られた肝転移巣に対する治療実験においてはIGF中和抗体の肝転移抑制効果は決して強いものではなく、また中和抗体の容量依存性が見られない(低濃度の方が抑制効果が高い)ことに疑問が残った。この原因を明らかにするため、IGF中和抗体投与による血清中のIGF値の変化を確認するためにマウスIGF-I/IGF-IIを測定するELISAの系を構築した。その結果、高容量の抗体投与では血清IGF値が上昇し、本抗体を多量に全身投与し、強くIGFを中和するとリバウンド現象が起こると考えられた.またこの実験結果からマウスIGF-I抗体(KM3168)、マウスIGF-II抗体(KM1468)の血中半減期が明らかとなり、至適投与量と至適投与法を決定しえた。次に本抗体療法の有用性をより簡便な系で証明するために大腸腺腫症のモデルマウスにKM3168、KM1468を投与したところ、やはりいずれの抗体も低容量で大腸ポリープの発生が抑制され、治療標的としての有用性が証明された。また両抗体の併用により相加的な治療効果が確認されたことよりIGF-I/IGF-IIの両者が大腸ポリープの発生に関わっていることも明らかとなった(第67回日本癌学会学術総会で発表、論文作成中)。
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