研究概要 |
近年,特定のリボソーム蛋白質が,リボソーム以外の場所で翻訳とは独立した役割,extraribosomal functionを持っていることが明らかになってきた.申請者はこれまでに消化器癌組織における全79種類のリボソーム蛋白質の遺伝子発現プロファイルを行ったところ,近接正常組織に比べ癌組織で遺伝子発現が上昇または低下する癌関連リボソーム蛋白質を9種同定した,本研究ではこれら癌関連リボソーム蛋白質の機能解析を通じて,消化器癌の新しい診断・治療予測システムを開発しようとするものである. 本年度は,リボソーム蛋白質L11とL13を中心に解析を行った. 1.ヒト癌組織におけるL11およびL13の発現 充分なインフォームドコンセントを得た上で提供いただいた,胃癌,大腸癌組織,隣接正常組織から全RNAを抽出し,L11およびL13の遺伝子発現をRT-PCRで解析した.その結果,胃癌の42%,大腸癌の45%でL11の発現上昇が,胃癌の35%,大腸癌の40%でL13の発現上昇が観察された. 2.各種ベクターの作成 リボソーム蛋白質L11およびL13について発現ベクターとsiRNA発現ベクターの作成を行った.それぞれ,いくつかの癌細胞を用いて,発現および発現抑制を遺伝子,蛋白レベルで確認した. 3.リボソーム蛋白質L11,L13の発現レベルと細胞増殖,抗癌剤感受性の解析 胃癌細胞株3種,大腸癌細胞株4種について,siRNA発現ベクターを用いて,L11の発現を抑制した際の増殖能をMTT法,コロニー形成法で解析したところ,L11の発現抑制により,癌細胞の増殖が抑制されることが明らかになった.また,L11の発現を増加させると,抗癌剤,X線で誘導されるアポトーシスに抵抗性となった,L13でも同様の結果が得られ,L11,L13が癌の増殖に促進的に働くことが示唆された.
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