研究概要 |
炎症組織では組織再生が盛んに行なわれ,その際に生じる生体反応の異常が発癌につながる可能性がある.近年,消化管の炎症発癌において転写因子STAT3の重要性が示唆されているが,実際,我々は,胃炎からの発癌においてSTAT3に誘導されるRegenerating gene(以下REG)蛋白がその抗アポトーシス作用によって発癌に関与することを示した.さらに本研究では,大腸においても同様に,潰瘍性大腸炎組織において過剰発現したサイトカインがSTAT3のリン酸化を亢進させ,その結果大腸粘膜にREG蛋白が過剰発現することが癌化の危険因子になることを示した.そこで本年度は,REG蛋白が潰瘍性大腸炎関連発癌にどのように関与するかを明らかにするために,前癌状態と考えられるdysplasiaにおけるREG蛋白発現を病理組織学的に検討した.その結果,非腫瘍性病変からdysplasia病変に至る過程でREG蛋白発現分布が基底部から粘膜表層部へ拡大し,dysplasiaの異型度が高度になる程,REG蛋白発現分布が拡大することを見出した.さらには,REG蛋白発現パターンがP53異常発現と相関することを示した.今日,実地臨床の場において,潰瘍性大腸炎に発生するdysplasia病変の検出・診断は病理組織学的にも困難な場合が多く,有用なマーカーが切望されているが,本研究成果から,REG蛋白発現がそのマーカー候補になる可能性が示された.
|