研究概要 |
潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis, UC)は長期経過例で大腸癌発癌のリスクが増加するため、早期発見のためにはsurveillance colonoscopyが重要である。しかし、背景粘膜に炎症性変化や再生性変化を伴い、内視鏡診断は容易ではない。慢性炎症粘膜から前駆病変であるdysplasiaを経て発癌する過程は散癸性の大腸癌発生メカニズムであるadenoma-carcinoma sequenceとは異なる発癌経路を有すると考えられており、 UCに合併する大腸癌は散発性大腸癌に比べて比較的早期に、すなわちdysplasiaの段階でp53遺伝子の異常が関与するといった特徴を持つ。より効率的なサーベイランスシステムの構築のために高危険群の絞り込みなどが可能となるマーカーが切望されている。そこで最近その臨床的有用性が各種の癌で報告されている血清抗p53抗体に着目した。 UC患者および大腸癌合併UC患者の血清抗p53抗体をELISA法により測定し、種々の臨床的因子との関連性を検討した。 健常人では63例中1例(1.6%)のみが血清抗P53抗体陽性であった。一般大腸癌では82例中43例(52.4%)が陽性であった。286例の潰瘍性大腸炎患者群では43例(15.0%)が陽性で、陽性率では健常人に比し有意に高く、 dysplasiaやcolitic cancer例を除いた評価でも有意に陽性率は高かった。さらに、 colitic cancer群8例中6例(75.0%)、dysplasia群5例中2例(40.0%)が抗P53抗体陽性であり、colitic cancer群における抗P53抗体陽性率はそれ以外の潰瘍性大腸炎患者群の陽性率とくらべ有意に高かった。また抗体価においても同様に有意な上昇を認めた。これらの結果からUC合併大腸癌の早期発見における有用性が示唆された。
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