研究概要 |
肝臓は生体内鉄代謝の中心臓器である.C型慢性肝炎(CHC),アルコール性肝障害(ALD),非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)などの慢性肝疾患は二次性鉄過剰症を合併することが知られている.これらの病態は成因が異なるが,それぞれの肝病態は鉄代謝異常とオーバーラップし,相互作用によって進展することが類似している.我々の検討では肝疾患の終末像である肝硬変症は原因に関わらず鉄過剰症を合併することも,慢性肝障害の病態と鉄代謝異常がオーバーラップしていることを裏付けるものである. NALFDだけでなく,CHC,ALDにおいても肥満は肝病態進展のリスク因子となっている.レプチン欠損の過食,肥満および脂肪肝マウスや高脂肪食負荷によるマウス脂肪肝モデルにおいて,肝組織のトランスフェリン鉄取り込みに働くトランスフェリン受容体(TfR1)の発現亢進が認められ,NAFLDにおける肝内鉄過剰の原因の一つとしてTfR1の発現亢進が関与していることを示した.さらに肝癌細胞株を用いたin vitroの検討でも脂肪酸負荷がTfR1の発現亢進に関与していることを示した.また,本マウスモデルにおいて腸管からの鉄吸収と網内皮系細胞からの鉄放出に対して抑制的に働く鉄代謝調節因子ヘプシジンの発現が肝組織の遺伝子発現レベルだけでなく,血清蛋白レベルでも低下していることを示した.このメカニズムとしてレプチンシグナルだけでなく,ヘプシジン発現調節系のBMP-Smadシグナル系の変化が関与していることを示した.具体的には腸管組織におけるBMP6の発現が低下しており,同時に肝組織のBMP受容体下流のSmadのリン酸化が低下していることを確認した.この結果は病的肥満において腸肝臓器間のBMPシグナルの変化がヘプシジンの発現低下を介して鉄過剰状態をもたらす可能性を示唆するものである.
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