本研究の目的として、遊離脂肪酸、特に長鎖飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸ではトランス脂肪酸による細胞障害性とサイトカイン産生とその機序を検討し、脂肪性肝疾患との関連を検討することを挙げた。該当年度の研究において、分離したマウスKupffer細胞に対する遊離脂肪酸添加により、長鎖飽和脂肪酸は細胞毒性を示し、さらに、トランス脂肪酸の一部は細胞障害性は明らかでなかったものの、サイトカイン産生をKupffer細胞に誘導した。また、マクロファージ系細胞であるKupffer細胞の貪食能を低下させた。マウスモデルでは24週間のトランス脂肪酸高脂質食の投与により、高度の肝臓への脂肪蓄積とサイトカイン産生の誘導が認められた。これらの脂肪蓄積誘導効果とサイトカイン産生の機構として、(1)脂肪蓄積と相関して肝臓にPPARγ2とその発現制御下にある分子の発現誘導が認められたことから、特にトランス脂肪酸には肝臓へのPPARγ2を発現誘導し、脂肪蓄積を誘導する生理学的作用が想定される。(2)トランス脂肪酸によるKupffer細胞へのサイトカイン誘導作用について、直接的な生理作用が想定される。さらに、貪食能の低下させる作用が認められたため、共通する経路としてautophagyに関わる生理作用が想定される。Autophagyの低下はIL-1βや、その他サイトカイン産生を亢進することが示されているため、脂肪酸が直接的にこれらの経路に作用し、結果的にサイトカイン産生を誘導している可能性が示唆される。これらを踏まえ、次年度において、若干の研究計画の修正を考慮し、さらに検討を進めていく予定である。
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