わが国におけるHCV-RNA陽性、HBs抗原陰性のHCV関連肝癌症例においてはHBc抗体陽性率が高く、HBV感染既往ないしHBVのoccult infectionがHCV関連肝発癌のリスク因子である可能性が議論されてきた。今回、1262名のHBs抗原陰性C型慢性肝炎患者を追跡観察したところ、1994年からの10年間で339名に肝癌が発生していた。HBc抗体は522名(41.4%)で陽性であり、3、5、10年累積発癌率はHBc抗体陽性者で12.7%、24.5%、41.9%、HBc抗体陰性者で10.6%、17.7%、33.4%であり、発癌率は前者で有意に高かった(P=0.005)。しかしながら、HBc抗体陽性率は男性、高齢者で高く、これらは肝発癌リスク因子であることが知られている。多変量解析を行うとHBc抗体陽性の肝発癌に関するハザード比は1.06(95%信頼区間0.85-1.31)であり、リスク因子として有意ではなかった。なお、HBV-DNAはいずれの患者血清からも検出されなかった(リアルタイムPCR法)。サブグループ解析を行うと、60歳以下の男性に限ってHBc抗体陽性者に肝発癌が多い傾向がみられた(P=0.092)。HBV既感染者において増殖能を有するHBVが肝細胞内に残存し、免疫抑制状態において再活性化する可能性のあることが知られている。しかし、今回の検討において、通常の経過におけるHBV既感染に由来する肝発癌リスクは、たとえあったとしても、C型慢性肝炎患者が元々有する発癌リスクを有意に左右するほどの大きさではないことが確認された。
|