本研究は、肝癌の発生過程におけるAIDによる遺伝子変異の標的分子を特定することにより、肝発癌に重要な役割を果たす発癌関連遺伝子領域を同定するとともに、遺伝子変異の生成機構という観点から、ヒト肝癌発生の分子機構を解明することを目的としている。まず、AIDを発現するレンチウィルスベクターの作成を行った。AID遺伝子をクローニングし、Puromycin耐性遺伝子の組み込まれたレンチウィルス発現ベクターに組み込み、パッケージングベクターと共に293細胞に導入することにより、組換えウィルス粒子としてのAID発現レンチウィルスを作成した。次に、ヒト肝組織から樹立した初代ヒト肝培養細胞にレンチウィルスベクターを感染させ、発現マーカー分子(GFP)を用いて至適な発現条件を選定した。引き続き、AID発現レンチウィルスを初代ヒト肝培養細胞に導入し、AID活性化後の細胞からDNAを経時的に抽出し、これらのDNAサンプルを鋳型として、さまざまな各種癌遺伝子・癌抑制遺伝子をクローニングし、塩基配列を同定、遺伝子変異生成の有無の解析を行った。 同時に、in vivoにおいてAID発現により肝細胞・胃上皮細胞にもたらされる遺伝子変異像を網羅的に解析する目的で、AIDトランスジェニック・マウスの肝細胞と胃上皮細胞を胎生期から経時的に分離しDNAの抽出を行った。引き続き、これらのDNAサンプルを鋳型として、発癌に深く関与しているとされる代表的な癌関連遺伝子のクローニングと塩基配列の決定を行った。 これまでの解析結果から、肝細胞と胃上皮細胞で共通してAIDの標的となる発癌関連遺伝子が存在するとともに、肝細胞でのみ特異的にAIDによる遺伝子変異導入が生じる遺伝子領域が存在していることが明らかとなった。
|