本研究は、肝癌の発生過程におけるAIDによる遺伝子変異の標的分子を特定することにより、肝発癌に重要な役割を果たす発癌関連遺伝子領域を同定するとともに、遺伝子変異の生成機構という観点から、ヒト肝癌発生の分子機構を解明することを目的としている。まず、組換えウィルス粒子としてのAID発現レンチウィルスを作成したのちに、ヒト肝組織から樹立した初代ヒト肝培養細胞にAID発現レンチウィルスを導入した。引き続き、AID活性化後の細胞からDNAを経時的に抽出し、これらのDNAサンプルを鋳型として、さまざまな各種癌遺伝子・癌抑制遺伝子をクローニングし、CGHアレイ法を用いた遺伝子解析を行った。 これまでの解析結果から、AID発現3週間後の肝細胞から抽出したゲノムでは、ほぼすべての染色体領域にわたって散在性に、多様な染色体異常が生じており、その大部分は一定の染色体領域の欠失として生じていることが明らかとなった。さらに、この染色体領域の欠失のうち一部の特定の領域については、再現性をもってAID発現により時間依存性に欠失領域が広がっていく現象が確認された。次に、CGH microarray法で検出された染色体レベルでの欠失領域に含まれる遺伝子群をゲノムデータベースから同定し、それぞれの遺伝子に特異的なプローブを作成し、real-time RT-PCR法により染色体異常出現領域における遺伝子発現量の定量評価を行った。興味深いことに、AID発現により欠失の生じた染色体領域には発癌に関連しうるさまざまな遺伝子が含まれており、これらの遺伝子発現がAIDによる染色体欠失の結果、大きく変化してくることが明らかとなった。
|