研究概要 |
21年度も計画書に従い、糖鎖解析技術を用いた脂肪肝の病態解析に関する研究を行った。まず、インフォームドコンセントを得たNASHおよび脂肪肝の臨床検体(血清、肝臓)を約50例集めた。現在、基礎研究で得られた糖鎖関連分子の測定を行なうため、引き続き症例数を集める予定である。基礎研究に関しては、以下の3点の成果を得た。 1. 脂肪肝から肝障害に進行する過程で、ERストレスが重要な役割を果たすことを見いだし、高脂肪食の動物モデルにおいてATF4、CHOP、ATF6などのストレスマーカーが上昇することを発見した。このとき、いくつかのシャペロンが誘導されるが、その代表的なものであるORP150をノックダウンすることにより、肝障害がどのように変化するか検討中である。 2. マウス肝癌細胞Hepal-6の培養液中に、飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸を添加したところ、前者において細胞死の誘導がより強く見られた。このとき、両者の細胞で誘導される遺伝子を、糖鎖遺伝子のアレイで解析したところ、興味あることに約2,500掲載されている遺伝子の中で有意に変化したものは、あるケモカイン(糖タンパク)のみであった。現在、その意義に関して検討中である。 3. 糖転移酵素の中で、最もがん化に関係が深いGnT-V(N-アセチルグルコサミン転移酵素V)のトランスジェニック(Tg)マウスに高脂肪食を負荷したところ、野生型マウスに較べてTgマウスでは脂肪肝に続発する炎症細胞の浸潤と線維化が、有意に抑制された。現在、そのメカニズムに関して、in vitroの系も使って解析中である。こうした成果をもとに、実際の脂肪肝からNASHの発症を見分ける、もしくは抑制する糖鎖マーカーないしは治療薬を開発し、大規模レベルでの臨床解析を行ないたい。 21年度は、ウイルス肝炎の治療に関する大規模studyの成果が出たが、今後同様に脂肪肝でも類似の研究へと展開したい。
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