肝発癌モデルである鉄負荷(Carbonyl iron 225mg/kg餌)を行ったHCV全遺伝子を発現するトランスジェニックマウス(HCV TgM)では、鉄負荷後6カ月目で肝内の脂肪化が亢進したが、この際小胞体ストレスのシグナル分子であるspliced X-box DNA binding protein 1(XBP1)とunspliced XBP1、phospho-eukaryotic initiation factor-2α、CCAAT/enhancer-binding protein homology proteinの発現が鉄負荷のないコントロールマウスに比べて有意に上昇していた。一方、脂質合成の転写因子であるsterol regulatory element binding protein 1(SREBP1)はタンパクレベルで発現亢進が認められたが、mRNAレベルではコントロールと差を認めなかった。SREBP1は転写後調節として小胞体ストレスにより活性化されることが報告されているので、鉄負荷によるHCV TgMの肝脂肪化は小胞体ストレスによるSREBP1の発現亢進が関与していると考えられた。更に鉄負荷HCV TgMの肝組織ではautophagosomeが増加しており、小胞体ストレスの亢進に矛盾しない結果であった。一方、鉄負荷HCV TgMの肝組織内には活性酸素の産生が上昇しており、これが小胞体ストレスを亢進させる一因と考えられた。 以上から、HCVタンパク存在下では鉄過剰による活性酸素の産生増加から小胞体ストレスが亢進し、これにより脂質関連転写因子であるSREBP1が活性化されて肝脂肪化が引き起こされることが明らかとなった。
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