研究概要 |
宿主肝細胞に組み込まれたHBV遺伝子が,宿主の遺伝子発現を修飾し,その細胞の増殖や維持に影響を及ぼしうることが明らかにされつつある.HBV組み込みが,いつ起こり,どのような遺伝子領域に影響を与え,その結果,どの程度の割合の肝細胞がHBV組み込みにより他の細胞集団に比し優位性を獲得して,クローナルに増殖していくのかを解明するため,我々が開発したHBV-Alu PCRを用いて,種々のstageのB型肝炎組織におけるHBV組み込み部位をcloningし,複数症例で組み込みが同一部位に観察される遺伝子領域,common integration sites,を探索した. 我々の開発したHBV-Alu PCR法は,肝組織における微量のHBV組み込みを高感度に,迅速に同定できる方法であり,慢性肝炎組織におけるHBV組み込みの検出にはこの方法が最も優れていると考えられる.このHBV-Alu PCR法を用いて,5例の慢性肝炎組織よりHBVが宿主配列に組み込まれている部位を増幅し,プラスミドにクローニングした.慢性肝炎組織より約100クローンにおいて,HBV組み込みとその近傍のヒトゲノム配列を同定しえた.これらのクローンの中にはcommon integration siteは同定できなかった.しかしながら,癌やウイルス組み込みの際の染色体の欠失や組み換えなどの好発部位とされるcommon fragile siteに存在すると推測されるものが複数クローンあり,これらはHBV組み込みがrandomに起こると仮定した場合より有意に高頻度であり,HBV組み込みがcommon fragile siteに好発することが証明された. このことは,肝癌のみならず慢性肝炎の段階において,細胞の癌化に関連した遺伝子のHBV組み込みによる変異がすでに始まっていることを示唆する所見であった.
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