研究概要 |
ADAMTS13は肝臓で産生されるメタロプロテアーゼであり、超高分子量von Willebrand factor (VWF)マルチマー(UL-VWFM)を分解する。本酵素が低下した病態では、UL-VWFMが切断されず、血小板とUL-VWFMが結合する結果、血小板血栓形成傾向となり、諸臓器の微小循環障害が惹起される。研究代表者は,これまで.ADAMTSI3活性の著減,基質であるVWF抗原の著増という酵素・基質の不均衡が,肝硬変末期,劇症肝炎,重症アルコール性肝炎に伴う多臓器不全,造血幹細胞移植後のveno-occlusive diseases,生体肝移植後の虚血再還流障害と密に関連することを報告してきた(Int J Hematol, 2010)。平成20年度には,肝硬変末期において血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)で検出されたADAMTS13に対するIgG抗体を証明し,TTP合併肝硬変と明らかなTTPの臨床徴候を呈さない末期肝硬変を区別することは困難であり、ADAMTS13活性が著減し、IgGインヒビターを有する末期肝硬変はTTP類似状態あるいは"subclinical TTP"と言っても過言ではないという結論に達した(Thromb Haemost 2008)。しかし,ADAMTS13活性が3%~50%の中等度~軽度低下例ではADAMTS13に対するIgG抗体を検出し得ず、抗体非依存性のADAMTS13低下機序が想定された。重症肝障害では血中エンドトキシン(Et)が高率に検出されるが、我々は昨年から今年度の検討により、肝硬変、劇症肝炎、アルコール性肝炎において血症Et濃度が高い例ほど血漿ADAMTS13活性が低値を示すことを明らかにしてきた。同様に、アルコール性肝炎および劇症肝炎において炎症性サイカイン(IL-6, Il-8, TNFα)が高値を示す例ほど、血漿SDAMTS13活性が低値を示すことを報告している(Alcohol Clin Exp Res, 2010)。これら、Et血症ならびにサイトカイン血症による抗体非依存性因子が、肝星細胞のADAMTS13産生に直接影響を及ぼすのか否かを現在検討中である。
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