研究概要 |
(1) 肝癌細胞株(HepG2, PLC/PRF/5)を化学的にepithelial mesenchymal transition(EMT)を誘導することによって、PIVKA-IIを産生するphenotypeに変化することを証明した。そのPIVKA-II産生の機序としてphenotypic changeによってアクチン線維の断裂が起こりアクチンの働きが必要とされるビタミンKの取り込みが低下することを蛍光免疫染色、Western blottingにより証明した。さらにアクチン重合阻害剤の投与によりPIVKA-II産生が誘導されることを確認した。さらに臨床検体でもEMTが誘導された肝細胞癌にてPIVKA-IIが産生されていることを免疫化学染色で確認した。 (2) これらの結果からEMT時におけるactin rearrangementによりビタミンKの肝癌細胞内への取り込みが障害された結果、PIVKA-IIは産生されると考えられた。 (3) 肝細胞癌は、腫瘍増大に伴い容易に低酸素状態に曝されると考えられるため、低酸素下に肝癌細胞株を培養するとEMTが誘導され、PIVKA-IIが産生された。低酸素下における肝細胞癌によるPIVKA-II産生機序も化学的にEMTを誘導した場合と同様であった。さらに臨床的に肝動脈塞栓療法のように肝細胞癌が低酸素かつ低栄養に曝された場合を想定し、同条件下で肝細胞癌株を培養するとPIVKA-II産生は逆に低下した。その機序として癌は生存に不利な条件下では蛋白合成を低下させることが原因と考えられた。 (4) 以上より、PIVKA-IIは肝癌腫瘍マーカーであるだけではなく、肝癌のEMTの指標として使用できる可能性が示唆された。
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